・三人称
・~た
・推理小説風のファンタジー系
・ページ数:254
・小林泰三
本作は推理小説風のファンタジーである。現実からは飛躍した世界観で行われる犯罪には、科学や常識の知識は全く役に立たない。
主な舞台は「不思議の国のアリス」の不思議の国で、それ及びそれに類する物語の登場人物も多く登場する。不思議の国のアリスの兎や帽子屋は割と有名だと思うが、有名どころから少し外れたキャラクターに関しても押さえておくとなお良い。特にハンプティーダンプティーだけは知っておいた方がいい。知らなくても何の支障も無いが知っておいた方がイメージしやすい。
小林泰三なのでグロテスクな描写が所々にある。常識の範囲内だとは思うが、もし臓物の描写が全くだめなら注意する必要がある。
そしてこの作品の魅力は世界観、トリックももちろんなのだが、論理的でありながら前提が間違っている会話だ。しかし完全に混沌としているわけではなく、そして一見哲学的でありながら全くそうではない。
P79 - P80
「わたしはあの場所にいなかった」
「そんなに言うのなら、証明して見せてくれ」
「確信があるのなら、今すぐわたしを逮捕しないのはなぜ?」
「泳がせてるのさ」三月兎が言った。「余罪の証拠が摑めるかもしれないし」
「余罪って?」
「取り調べ中の罪とは別の罪のことだよ」
「単語の意味を知りたいんじゃなくて、余罪ってグリフォン殺しのことかって訊いているの」
「えっ。あんた、グリフォンを殺ったのか?!」
三月兎の目が飛び出した
「だから、殺ってないって」
「でも、いま確かに余罪はグリフォン殺しだって言ったよ」三月兎が食い下がった。
「えっ?自白したのか?!」頭のおかしい帽子屋が歓声を上げた。「これで見事事件解決だ!!」
「そんなこと言ってないわ。私はハンプティ・ダンプティもグリフォンも殺してない!」
「これじゃあ、堂々巡りだ。もう観念したら?」三月兎がぼやいた。
「やってもいない罪を告白するなんてまっぴらごめんよ」
「事態を打開しなくちゃ」ビルが言った。
「難しい言葉を使っちゃった? かっこいい? それからいまの使い方合ってた?」
「合ってるけど、言うだけじゃ何も進展しないわ」