タイトル:厳冬の惑星
ページ数:489
著者:保科 弥生
ジャンル:SF
文章の特徴:三人称
長編だが読みやすい文章。故に、お堅い作品が好きな人にはお勧めできない。
前半は人種差別や政治的な色の濃い、ある意味リアリティのある物語なのだが、途中から異能の力を持つ者たちの戦いにシフトするので、いかにもな”文学”を読んでいたのに、いつの間にかラノベに変わっていたような印象を受ける。
せめて後半に登場する女性陣が極端な美人でなければもっと好印象だった。そういう設定でも問題ないはず。読みやすいし面白いのでそこが残念。(ちなみに挿絵は一切ない)
以下:個人的な感想
-----------------------------------------
終盤のテーマは核武装で、核は悪という著者のメッセージがあからさまなまでに強い。この手の主張を見るにつけ、賛成ではあるが、核だけを特別視することに些か反発を覚える。
核は「叩いたときに賛同者が特に多いモノ」だ。現代社会の問題点として核爆弾を悪者にしておけば、それを不快に思う読者は殆どいないだろう。
だが同じ核でも原子力発電や、あるいは見方を変えて食品添加物やら原油漏れによる海洋汚染やら、そんなものを批判すれば、「経済活動を行う上では仕方ない」とか「じゃあエネルギー問題をどう解決するんだ」とか、いろんな批判が飛んでくる。
この世には、本来は使ってはいけないモノがたくさんある。一度で懲りなければならなかったことがたくさんある。ありすぎて、あまりに生活に密着しすぎているので迂闊に批判できない。
そんな社会の空気の中では、核兵器は創作物中の絶対悪として最適ではある。が、それを安易に持ち出す様は、なぜか、その他のたくさんの問題をとりあえず保留にしているように見えてきてしまうのである。
※どうでもいいけど結局リシテアどうなったんだ?
-----------------------------------------
なお、終盤こそ核武装がテーマだが、物語全体としては核が悪いとかそういうことを言いたいわけではないだろう。そんな説教くさい話ではなく、純粋にSFとして(かは微妙だが)楽しめるので、一読の価値はある。
以下、ネタバレにならない箇所をわずかに抜粋
シリウスが自分の席の隣にある椅子を引いたので、メティスは手にもっていたランチを置き、席についた。わざわざ席を空けておいてくれたのだろうか。
「ねえ、彼も誘ってみようか。学食来るの、珍しいんだろう?一人で寂しいだろうし」
「やめとけって。あいつ臭いぜ。みんなあいつを避けて席取ってるの、わかるだろ」
「そんなの、分からないじゃないか」
「それはお前だよ。この学校に来てまだ二日だろ?あいつがどれだけの害なのか、知らないんだよ!」
--------------------------------------------------------------
コーヒーを渡されると、メティスはそれをすぐに口に運んだ。熱い、と一言言いながらも、少しずつ口に入れていく。その様子を見て、カロンは不思議なものを感じた。あのリシテアの反応、あれはある意味正常なものだ。普通、あれだけの惨劇が目の前で起こればだれもがパニックを起こすだろう。
--------------------------------------------------------------
その異変に気がついたその瞬間、廃屋の一階にあるドアが勢いよく開いた。
クリーンスケアの兵隊が入ってきたのだろうか、そう思い、隠れる場所を探したが、いい場所が見つからない。この廃屋はずいぶん前にうち捨てられていた。少し動くだけで埃が立ってしまうし、何よりも自分の足跡が残ってしまっている。
廃屋に潜む、敵に見つかったときに自分を守る、その基本を全て忘れてしまっていた。こんなことで、こんな失敗で死ぬわけにはいかない。隠れることをあきらめて、足音を立てずに一階に降りる。すると、そこには三人の兵士がいた。武装している。